特集展示「稲作民俗事始め―米をつくる技術、米がつくる文化―」
2024年12月25日(水)2025年2月17日(月)
鏡餅、お花見、福箕(ふくみ)、稲荷神社など、稲作の文化から派生した風習や信仰は、いまも私たちの生活に息づいています。これは、稲作が日本人にとって基本的な生業(せいぎょう)であったことを意味します。このことは、農具の改良や新たな農法の導入など、米作りをめぐる技術革新の歴史からもわかります。稲作にまつわる民俗は、まるでたわわに実る稲穂のように豊かな様相をみせます。
本展示では、近年の民俗学研究を振り返りながら、農具を中心とした技術伝承や農耕儀礼、穀霊(こくれい)信仰に関わる資料を紹介し、人びとがどのように稲作に向き合ってきたのかについてたどります。みなさまにとって、本展示が稲作とその文化について振り返る「事始め」となることを願っています。
主な展示資料
『大阪府写真帖』より「生駒山」
大正3年(1914) 大阪歴史博物館蔵(柴垣和夫氏寄贈)
大正期の生駒山麓の水田風景です。イネのあいだには、畦畔(けいはん)に植えられたマメの葉がみえます。水路では漁撈(ぎょろう)も行われたことでしょう。遠方に目を向けると、マツの疎林(そりん)が確認できます。これは、生駒山で肥料のための草が盛んに採取されたことを示しています。近年、民俗学では生業を複合的に考察する向きがあり、水田は稲作だけでなく、畑作や漁撈、狩猟などさまざまな生産活動の場であると捉えられています。稲作民俗の目を通してみると、ひとつの写真が違った意味を伝えてくれます。
『大阪府民具図録』
昭和14年(1939) 大阪歴史博物館蔵
大阪の民俗学者・小谷方明(こたにみちあきら)(1909-1991)が、自宅の民具をスケッチし70部限定で出版した図録です。本書には日本民俗学の創始者・柳田國男(やなぎたくにお)(1875-1962)も関心を寄せ、書信を送っています。当時、「民具」という語には「庶民が自給的に製作した道具」という意味づけがなされていました。しかし、本書ではこの考えにこだわることなく、稲作・畑作にかかる農具を掲載しています。のちに、小谷は唐箕(とうみ)や踏車(ふみぐるま)などの職人が製作し農村で普及した道具に注目し、これらも民具研究の対象とする「流通民具論」を提唱していきます。
踏車(ふみぐるま)
明治19年(1886) 大阪歴史博物館蔵(岡本俊二氏寄贈)
羽根板のついた車を足で踏み、田に水を汲みあげる揚水機です。本資料には「大坂根元|農人橋二丁目/京屋治兵衛(きょうやじへえ)」という銘文の焼印が確認できます。大蔵永常(おおくらながつね)の著書『農具便利論』(1822)には、踏車は大坂農人橋(現:中央区)の農具職人・京屋が製作し、宝暦・安永年間(1751~1781)に各地に普及したとみえます。踏車の製作者として名高い京屋ですが、現存する京屋製踏車はごくわずかで、現在までに大分県に2例、奈良県に2例(1例は車のみ)が確認されます。本資料は、国内5例目の京屋製踏車です。
【大阪府指定有形民俗文化財】次郎坊人形
江戸時代 杭全(くまた)神社蔵
大阪市平野区の杭全神社では、4月13日の夕刻に御田植(おたうえ)神事が行われます。当神社では、尉面(じょうめん)をつけたシテが「鍬(くわ)入れ」「唐犂(からすき)」「田ならし」「籾種撒き(もみだねまき)」「田植え」の行程を演じます。「田植え」の場面では、「太郎坊やーい、次郎坊やーい」という掛け声のあと、田男(たおとこ)と早乙女(さおとめ)が次郎坊人形を伴ってあらわれます。シテは次郎坊に箸でモッソウ(白蒸)を3度食べさせ、桶に放尿させる所作を行います。その後、次郎坊人形を背負った田男と早乙女が、松葉をイネになぞらえ田植えを演じます。
牛の藪(やぶ)入り幟(のぼり)
昭和8年(1933) 大阪歴史博物館蔵(羽間平安氏寄贈)
牛の藪入りは「牛駆(か)け」とも呼ばれ、大阪近郊で5月5日に行われた行事です。特に梅田のものが有名で、この日は農耕牛を新しい鞍や種々の草花で飾り、自由に遊ばせました。端午(たんご)の節供(せっく)とも時期が重なり、ウシに粽(ちまき)を食べさせ、残りは子どもの疱瘡(ほうそう)除けとされました。5月5日は農業や牛馬の神とされる野神(のがみ)の祭日にあたることから、牛の藪入りとの関係が想像されます。本資料は、上方郷土研究会が明治以降に途絶えていた本行事を復興させた際の幟です。ウシの絵は、郷土玩具を多く描いてきた川崎巨泉(かわさききょせん)(1877-1942)の手になります。
【関連行事】
◆学芸員による展示解説
【日 時】令和7年1月13日(月・祝)・1月25日(土)・2月15日(土
※いずれも午後2時から30分程度
【担 当】俵 和馬(大阪歴史博物館 学芸員)
【会 場】大阪歴史博物館 8階 特集展示室
【参 加 費】 無料(ただし、入場には常設展示観覧券が必要です)
【参加方法】当日直接会場へお越しください(事前申込不要)
【開催概要】
【名 称】 特集展示「稲作民俗事始め―米をつくる技術、米がつくる文化―」
【主 催】 大阪歴史博物館
【会 期】 令和6年(2024)12月25日(水)~令和7年(2025)2月17日(月)
【休 館 日】 火曜日・年末年始(12月28日~1月4日)
ただし2月11日(火・祝)は開館、翌12日(水)は休館
【開館時間】 午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
【会 場】 大阪歴史博物館 8階 特集展示室(常設展示場内)
〒540-0008 大阪市中央区大手前4-1-32
電話 06-6946-5728 ファックス 06-6946-2662
(最寄駅)Osaka Metro谷町線・中央線「谷町四丁目」駅②・⑨号出口
大阪シティバス「馬場町」バス停前
【観 覧 料】 常設展示観覧料でご覧になれます。
大人600円(540円)、高校生・大学生400円(360円)
※( )内は20名以上の団体割引料金
※中学生以下・大阪市内在住の65歳以上(要証明証提示)の方、
障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
【展示資料数】約30点